東京地方裁判所 昭和47年(ヨ)7162号 決定 1973年1月18日
仮処分決定
当事者の表示 別紙当事者目録のとおり
右当事者間の昭和四七年(ヨ)第七一六二号仮処分申請事件について当裁判所は、債権者の申請を別紙記載の理由により相当と認め、債権者らに
金三百万円
の保証をたてさせて、次のとおり決定する。
主文
別紙主文目録記載のとおり
昭和四八年一月十八日
東京地方裁判所民事第九部
裁判官 宮崎富哉
主文目録
一 債務者らは、別紙物件目録記載の土地上に建築中の鉄筋コンクリート五階建建物につき、四階を超える部分のうち、床面を別紙一のイロハニホヘトイの各点を結ぶ線で囲まれた面、北側及び西側の各側面をそれぞれ別紙二のイロハニホヘトチリイの各点を結ぶ線で囲まれた面、別紙三のイロハニホヘトチリヌルヲイの各点を結ぶ線で囲まれた面で特定される部分の建築工事を中止し、これを続行してはならない。
二 債務者らは、前項の建物につき前項で示された部分内に存在する前項の建物建築のための木製の仮枠を本命令の送達を受けた日から五日以内に取り除け。
三 債務者らが前項の期間内に前項の履行をしないときは、債権者らまたはその委託を受けた第三者は前項の仮枠を取り除くことができる。
理由
一疎明資料によると、債務者らが建築しようとしている主文一項掲記の建物(以下本件建物と略称)が設計どおりに建築されると、本件建物の真北に在る債権者らの所有し、居住する建物およびその敷地たる土地は、冬至において、本件建物により平均して四時間以上(右土地の地面でみて、その面積の約半分が本件建物の日影内に在る時間は、午前九時過ぎから午後二時過ぎまで)に亘り日影内に在ることになり、これによつて奪われ
る日照エネルギーは日影時間零の場合におけるそれの82.3パーセントに達することが疎明される。右の事実によれば、債権者らは本件建物が建てられることにより多大の日照を奪われるのみならず、居宅南面で仰ぐ天空は著しく狭まり、採光、通風、その他の点でもその生活環境が大いに悪化するであろうことは容易に推認される。なお、疎明資料によれば、本件建物の敷地付近は、都市計画上、住居地域、準防火地域、第四種容積地区内に在ることが認められる。
ところで、以上認定の事実のみを以つてしては、債権者らの被る被害がその受忍すべき限度を超えるものと速断することはできず、なお諸般の事情を検討しなければ、この点についての最終的結論が出ないことは勿論であるが、最終的にもそれが受忍限度を超えるものと判断される可能性は決して少くはない。
二債務者らは昭和四七年一月一二日午後三時の当事者双方審尋期日に当裁判所の勧告により本件建物につき主文第一項掲記部分の建築設計の変更を考慮する旨を債権者らに言明した。それで当裁判所は債権者らが設計変更に要する日時を考慮して次回の当事者双方審尋期日を同年一月二二日午後三時に指定告知した。しかるに債権者らの提出した追加疎明資料によると、債務者らはその翌一三日から急拠木製板枠を組み立てて、主文第一項掲記部分を含めて、本件建物五階の工事に着工したことが疎明される。
三以上のとおりなので当裁判所は債権者らに金三〇〇万円の保証を立てさせたうえ、主文のとおり決定することにした。
当事者目録
債権者 巻幡茂子
他二名
右債権者代理人 五十嵐敬喜
債務者 佐藤忠治
債務者 三恵建設工業株式会社
右代表者 島崎兼三
右債務者等代理人 朝比奈正吉
別紙物件目録
(一) 東京都渋谷区恵比寿南二丁目二五―五
宅地 124.23平方米
(二) 同 二丁目二五―八
宅地 289.42平方メートル
(三) 右(一)(二)記載の土地上に建築中の建物一棟
鉄筋コンクリート五階建共同住宅
一階床面積合計212.700平方メートル
二階床面積合計220.859平方メートル
三階床面積合計217.259平方メートル
四階床面積合計217.259平方メートル
五階床面積合計159.893平方メートル
屋上床面積合計13.280平方メートル
不動産仮処分申請
一、当事者の表示
別紙当事者目録記載の通り
申請の趣旨
債務者等は、別紙物件目録記載の土地に建築中の建物について、建築工事を中止して、続行してはならない。
執行官は、右命令の趣旨を公示するため適当な方法をとることができる。
との裁判を求める。
申請の理由
一、(1)債権者らは、住居地肩書地に居住する者であり、後記建物との位置関係は、疏甲第五号証平面見取図の通りである。
(2)債務者佐藤忠次は、債務者三恵建設工業株式会社との間に、建築請負契約を締結し、
東京都渋谷区恵比寿南二丁目二五―五
宅地 124.23平方メートル
右同 二丁目二五―六
宅地 269.42平方メートル
の土地上に、左記建築物(以下本件マンションとする。)を建築計画しているものであり、現在、その一階部分の建築工事を了している。
(イ) 主要用途 共同住宅
(ロ) 工事種別 新築
敷地面積 361.34平方メートル
建築面積 220.86平方メートル
延べ面積 1041.26平方メートル
高さ 20.100メートル(地上五階)
構造 鉄筋コンクリート
(ハ) 用途地域
旧 住居地域 準防火地域 第四種容積地区
新 住居地域 準防火地域 第三種容積地区 第三種高度地区
二、右建築物は、債権者らの日照を妨害し本件予定地附近の地域性に反するので、その工事は、差止められるべきである。
(一) 右建築物は
(イ) 債権者 巻幡、織田にとつてはほぼ真南に
(ロ) 同 沼田、高橋、田中にとつては東南に
(ハ) 同 松尾にとつては西南に位置するもので、その日照妨害は、大なるものと思料される。
尚、この日照の程度については、債務者らの再三にわたる要望にもかかわらず債務者らにおいて、設計図(日照図を含む)を提出せず、かつ又、説明会もおこなわないので、その詳細は不明であり、調査のうえ主張する。
概略をいえば
(イ)は 午前 午後とも
(ロ)は 午前から真昼の日照が
(ハ)は 真昼から午後の日照が
奪われる。
(二) 本件地域附近には、恵比寿南二丁目九番地附近(本件建物の西南)に六階建の建物が建築中、同二一番地附近(本件建物の西北)に四階建が、同二四番地北側(本件建物の北)に四階建の建物が建築中である以外は、すべて、二階ないし一階建の建物がたちならぶ、低層住宅街となつている。
三、およそ、住宅における日照の確保は、快適で健康な生活の享受のために、欠くことのできない生活利益であり、これは自然から与えられた万人共有の資源である。
この生活利益は、隣接者間で建物を建築することが、生活にかかわるような場合にのみ、相互の妨害を、互いに受忍しあわなければならないものであつた。債務者らのように、自らの居住の確保だけでなく、営利を目的として建築される場合には、隣人の生活者に対し、最大限その生活利益を害しないよう、注意して建築しなければならない義務を有するものといわなければならない。
何故なら、本件マンションの建築計画は事前に(この事前にとういう意味は、債権者らも自らの建物を改築する等して日照確保できるよう十分に計画がたてられるという意味で、十全な期間ということである)知らされることなく、しかも、その利益は本件マンションにだけ、独占的に確保され、さらに、債権者らにおいて、一方的に不利益を被るだけでなく、敷地の狭隘、資金計画、隣接者間の日照等を考慮すれば、全く高層化等行うことによつて、日照を確保することが、不可能、つまり、被害回復の手段を有しないということになるからである。
これをいいかえるならば、他人の生活利益を根底より破壊するような、土地利用のあり方は、仮りにその建築物が、建築基準法上、合法であつたとしても、社会生活上許容しえないものばかりでなく、法的(憲法および民法)にも許容しえないものといわなければならない。
これを本件債権者らにおいてみるに、本件建築物は、日照妨害の程度が、前記地域性にかんがみて、かなり大幅なものと予想され、債権者らは、人格権と物上請求権の複合的な構造を有する日照権を、被保全権利としてこれを排除しうるものと、いわなければならない。
四、債権者らの生活破壊は、金銭では償いえないものであり、かつ、本件建築完成後においては、被害回復が不可能となるため本件仮処分申請に及ぶ次第である。
昭和四七年一二月五日
右債権者等代理人弁護士
五十嵐敬喜
東京地方裁判所民事九部御中
別紙物件目録
(一) 東京都渋谷区恵比寿南二丁目二五―五
宅地 124.23平方メートル
(二) 東京都渋谷区恵比寿南二丁目二五―六
宅地 369.42平方メートル
当事者目録<略>
昭和四七年(ヨ)第七一六二号
不動産仮処分申請事件 債権者 高橋六郎 外二二名
債務者 佐藤忠次 外一名
昭和四八年一月九日
債権者等代理人弁護士
五十嵐敬喜
東京地方裁判所民事九部御中
準備書面(その一)
一、申請の趣旨の訂正について
債権者等は申請書記載の申請の趣旨を次のとおり訂正する。
申請の趣旨
債務者等は、別紙物件目録記載の土地に建築予定の鉄筋コンクリート五階建建築物のうち、別紙添付図面斜線部分の建築工事をしてはならない。
執行官は、右命令の趣旨を公示するため適当な方法をとることができる。
との裁判を求める。
二、申請の趣旨訂正の理由について
(1) 申請書記載の申請の趣旨は
「債務者らは、別紙物件目録記載の土地に建築中の建物について、建築工事を中止して続行してはならない。
執行官は、右命令の趣旨を公示するため適当な方法をとることができる。
とするものである。
けれども、右申請の趣旨は、一切の工事の中止を求めるものであったが、現在四階建まで工事が完了しており、この建築部分の撤去は困難であると考えられるので、申請の趣旨の訂正のごとく、設計変更を申請するものである。
昭和四七年(ヨ)第七一六二号
答弁書
債権者 高橋六郎 外二二名
債務者 佐藤忠次 外一名
右当事者間の建築工事続行禁止仮処分事件につき債務者らは左記のとおり答弁する。
昭和四七年一二月二五日
右債務者両名代理人
弁護士 朝比奈正吉
東京地方裁判所
民事第九部御中
申請の趣旨に対する答弁
申請人らの申請を却下する。
との裁判を求める。
申請の理由に対する答弁
第一項は認める。
第二項乃第四項は争う。
抗弁
一、本件建物は賃貸用共同住宅の建設に必要な資金を借入れたい人のために東京都が銀行をあつせんし利子補給と損失補償とを行なうことにより住宅建設の促進を図ることを目的とした制度に基づいて債務者佐藤忠次が昭和四七年七月七日付渋谷区第七五一号建築確認証により東京都渋谷区恵比寿南二丁目二五番一〇号所在敷地に建築中のもので設計の内容は本件申請理由第一項に記載のとおりである。而してその設計計画並に住宅規制は住宅局の厳重なる審査の上許可を受け更に渋谷区建築課の建築確認その他すべての条件の審査を経て合格したものに対し融資斡旋が決定されたものである。
二、かくて昭和四七年八月二二日付住宅建設資金借入に関する契約書記載のとおり株式会社三菱銀行より金二七、二八〇、〇〇〇円の融資が決定し次で、同年一二月二日付融資あつせん決定通知書のとおり別途金二五、八四〇、〇〇〇円の融資が決定した。
三、最初債務者佐藤忠次は建築主として昭和四七年七月一八日工事請負業者鵬建設株式会社(千代田区岩本町三ノ七ノ一筋野ビル電話八六一―四六九二番)社長荒木政雄、会社設計部長大沢富士雄らと共に近隣居住者を歴訪して挨拶を述べた上更に八月二五日地鎮祭挙行後向側居住者高橋六郎方において工事請負業者、近隣居住者高橋六郎、沼田和子、田中守の妻、巻幡茂子、兼村ヒサの諸氏と会談の結果出席者全員了解の上別紙の如き念書を作成した。
四、ところが八月二九日夕方鵬建設の本社と建築現場に、
「附近の人達との話合がつくまで建築工事を中止し明朝都庁日照相談室に出頭するように」との電話がかり、更に同じ頃三菱銀行恵比寿支店から
「本店からの電話で住宅局貸付課に明朝都庁日照相談室に出頭するように、それまでは一時貸付契約を見合わすように」
との電話を受けたと伝えて来た。
五、八月三〇日午前九時債務者佐藤忠次と鵬建設の大沢部長と同道都庁日照相談室に小山副室長、高橋主査を訪問したところ
「当方では呼出しはしない、渋谷区確認の建築に関して都庁に呼出すことはない、或は宇坦指導部長が直接電話したのかも知れない」、
とて同部長に問合せたところ、やはり宇垣部長であつた、そうして同人から、
「すぐこちらに来るように」
と言われ、以上四名が同部長室に行つた、そうして債務者佐藤忠次から同部長に、
「昨日夕方近所との話合いがつくまで工事を中止して、日照相談室に来るようにとの電話を受けたので訪問したが部長は如何なる権限で工事中止命令を出したか」、
とただしたところ同郎長は、
「決して工事中止命令はしない、実はえらい人(元社会党都議会議員沖田正人)から電話で、建築現場附近の居住者数人が工事を一時中止して話合いに入るように斡旋してくれと言つて嘆願書を持つて来たので頼むと言われたので、皆の要望を鵬建設に伝えたところ責任者が居ないと言うから現場に電話した次第だが結局これらの人達のいう「工事を中止して話合いに入るように」との要望をそのまま伝えただけで私から中止の命令はしない又命令する権限もない」
と弁解していた。
その時鵬建設の大沢部長から、
「本件については既に八月二五日このとおり話合いずみだ」
とて別紙念書を示したところ宇垣部長は早速近隣居住者たる巻幡、高橋両名に電話した結果近隣居住者全員は右念書の各項了解済であることを確認した。
そこで大沢部長は直ちに宇垣部長室から工事現場に電話して工事を再開するよう指示した。
宇垣部長は更に重ねて、
「今も言つたとおり沖田氏の電話での要望の趣旨を業者に電話しただけで決して工事中止を命令したのではない。渋谷区の確認証を得て建築するのに当方から中止命令を出す権限はない、しかも近所との話合いも済んでいることだから工事を進めるように」
と言つていた。
六、前項記述のとおり宇垣部長は工事請負業者にのみ電話したが、建築主に対しては何等連絡しなかつた点は不可解である、又同部長は近隣居住者の内特に高橋六郎がまだ一回も建築主と話合つていないから話合いをするように頼まれたと言つていたが事実は既に七月三十一日、八月四日及び八月五日の三回に亘り来訪を受け話合いをした。その要旨は、敷地実測の七割七六坪建てられるのを六割六〇坪とし、七階建の設計を五階に変更した。又南側八メートル道路に面した南面をあければその利用価値が多いのに、北側の巻幡氏との間を4.5メートル乃至5.4メートルあけ、西側の高橋氏との間はセットバックし東からの光線が全部当るようにした。尚工事は杭打の許可であるが振動のない穴掘工事にしたことを説明した。そうしてこれを聞く者達は大体了解した旨返事をした。
七、八月三一日午前九時、債務者佐藤忠次は鵬建設の大沢部長と同道都庁日照相談室に小山副室長、高橋主査を訪問、『八月二九日夕方住宅局貸付課から日照相談室に来るように、それまでは貸付契約を見合わすようにとの電話』があつたことについて真相をただしたところ貸付課長は
「そのようなことは絶対にない、あり得ないことだ」
と言明していたが何人がそのような電話をしたか判明しなかつた。その後三菱銀行本店に問合せた結果当時同行に電話したのは竹内係長であつたことが判明したが竹内その人が自分の意思で右のような電話をしたとも思われず又何のために誰にたのまれて三菱銀行にこのような電話をしたか疑問のまま今日に至つている。
八、以上いろいろな経緯があつて鵬建設としては到底円満裡に工事の進行は不可能だと憂慮し九月三日建築主に対し工事請負の辞退を申出たので債務者佐藤忠次は止むなく山品建設株式会社(文京区大塚二ノ八ノ三、電話九四一―一一〇一番)と建築請負契約を締結した。
九、かくて山品建設は九月七日改めて必要な機械類等を現場に搬入して建築工事に着手したところ、九月十一日午前一〇時沖田正人から同会社に次のような電話があり、同社吉田管理課長がこれを受けた。
「隣近所の人と話合いをしてから仕事に着手してほしい、そうでない場合は都の住宅局に手配して工事中止処分をさせる」
次で同人から再び電話があり、
「近所との話合いが今夜あるから出席してほしい」
とのことで同夜八時十分頃から九時三十分頃まで同社工事部第二課長小林公司がその会合に出席した。電話では沖田も出席するように言っていたが、会合には不参し、代りに篠崎渋谷区議会議員が来た。小林は他の出席者の意向を建築主に伝え返事をすると約して別れを告げたので同夜一〇時頃出席者の一人高橋六郎に電話し
「まだ結論が出ないので今少し待つてほしい」
と伝えたところ沖田正人が電話口に出て、
「山品建設が飽くまで強行するならば今日住宅局財務の村田と話合つて来たが住宅局長に話をつけて以後山品建設を住宅局の指名からはずすようにするからよく、考えなさい」
と言つた。
これより先、同日昼頃沖田正人は工事現場に臨み居合せた工員達に次のような名刺<略>を示し、命令的態度で、
「話合いがつくまで工事をやつてはならない」
と言渡して立去つたので工員達は直ちに工事を中止した。
一〇、翌九月一二日債務者佐藤忠次は知人渡辺竜三と同道、日照相談室に高橋主査を訪問、沖田正人の前日の言動について逐一報告し且つ問合せたところ沖田の言つた村田というのは財務局の主幹であつた。尚高橋主査から村田主幹に電話で問合せたところ、
「確かに昨日沖田氏から電話があつた、その要示は山品建設は東京都の指名会社であるかとの問合せと近日中或る嘆願書を出すからよろしくお願いするとのことであつた」
これに対し村田主幹は「山品建設は指名会社である」と回答した以外何も言わなかつたと言つていた。
一一、沖田正人の度重なる脅迫に恐れをなした山品建設は工事を中止したまま九月一四日に至りまたまた宇垣指導部長から同社に電話があり同月一八日住宅局貸付課からも出頭を求められ「工事は現在どうなつているか」といわれ「中止しています」と答えた。
一二、かくて山品建設としては沖田正人を先頭に都上級職員の度重なる圧迫干渉に堪えかね前途を憂慮し工事請負を辞退するに至つた。
一三、債務者佐藤忠次は九月二九日三恵建設株式会社(渋谷区恵比寿一ノ一〇ノ五電話四四四―八九四一番)と工事請負契約を締結し直ちに着工し順調に進行した。
一四、尚債務者三恵建設は一〇月一七日債権者高橋六郎の来訪を受けた同社専務取締役山本穣と打合せ前々請負業者鵬建設と近隣居住者との間に作成した昭和四七年八月二五日付念書は之を認め更に一〇月二四日付念書を作成して債権者高橋六郎に交付しこれを近隣居住者に呈示し若し追加すべき条項あらば申出るよう申入れたが、其の後既に二ケ月を経ても何等の答もない。
一五、本件に関する今日までの経緯は以上のとおりであり、債務者らとしては債権者らと再三話合いもし、念書も作成したが債権者らはその時は何等異議を述べず、了解したような態度を示しながら陰に元都議会議員や区議会議員を頼み彼らを介して建築に関する監督官庁たる都の上級職員に働きかけ「債務者らは一度も話合いをせず、全然話合いに応じない」かの如く不実の申告をなし、そのため債務者らは度々出頭を求められる結果となつた。而して一面工事請負業者に対して殆んど暴力団的言動に出ている。既に鵬建設、山品建設の二業者までが畏怖の念を抱いて工事請負を辞退するに至りこれに伴う損害も莫大である。債権者らは本件建物の建築は全面的に不適当であり隣接居住者の日照を完全に奪い去るかのように主張するけれども現実を無視した言い過ぎではなかろうか、現に債権者として名を連ねている者の内兼村、織田、松尾、田中の如きは日照とは何の関係もない。本件建物の附近恵比寿南一丁目二丁目の地域について見るに四階建乃至一一階建の高層建築で既に出来上つたばかりのもの、目下建築中のもの、将に建築に着手せんとするもの、今や十指に余り益々増加する趨勢にあり本件建築計画の如きも謂はば世間並のことであつて断じて工事禁止仮処分の対照となるべきものではないと信ずる。